hirax.net::「星の王子さま」の背景に::(2000.12.10)

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ウワバミの中身を見てみよう

 以前、

で、塚崎幹夫氏の「星の王子さまの世界 - 読み方くらべへの招待 -」に沿ってSaint-Exuperyの「星の王子さま」-Le petit prince -について考えてみた。その中で、「星の王子さま」の最初の方で登場する「ある星を滅亡させた三本のバオバブ」がナチズム・ファシズム・帝国主義であるという塚崎幹夫氏の意見を長々と紹介しているわけだが、先日その内容に関連して
 「三本のバオバブ」について枢軸国を意味しているのではないかとの記述がありましたが、同様の視点に立てば、これはまさしくファッショと見ることができるでしょう。何故なら、イタリアファシスタ党のシンボルは三本の薪を束ねたシンボルだったように記憶しています。単語としてのファッショは束ですね。古代ローマの団結を意味するシンボルだそうです。
という実に興味深いメールを頂いた。

 もし本当に、Saint-Exuperyが強い危機感を感じていた「三本のバオバブ」= Saint-Exuperyの友人達を危ない目に合わせているという「三本のバオバブ」とよく似ている「三本の薪」という図柄をファシズムがシンボルとして用いていたのなら、それはとても興味深い事実である。それは、Saint-Exuperyが「三本のバオバブ」を描いた時代背景の一つとして、とても重要なものとなるだろう。本来は神聖視されるバオバブの木を、Saint-Exuperyが恐怖の象徴として用いるきっかけの背景の一つとして考えることができるかもしれない。

 というわけで、ファシスタ党のシンボルを調べて、Saint-Exuperyが「星の王子さま」を描いた時代背景を考えてみることにした。何しろ今から考えてみると実に残念なことに、私は高校以降に世界史を学んだことがないのである。だから、この時代の知識は全然無いに等しい。もし、ファシスタ党のシンボルを調べてみて、それが確かに「三本のバオバブ」を連想させるような「三本の薪」であるならば、それはとても興味深いことである。そして、もしそうでなかったとしても、ファシスタ党のシンボルを調べる中でSaint-Exuperyが「星の王子さま」を描いた時代背景を知ることができるならば、それはそれで面白いことだと思うのだ。
 

 そこで、イタリアファシスタ党の名前の由来とそのシンボルに関する情報をネット上でつらつらと眺めてみた。すると、ファシスタ党の名前の由来の方は情報も多く、簡単にまとめてしまうと

 ファシスタ党の名前はイタリアのファシスタ党の前身であるファシストの団体FasciItaliani di Combattimentoに由来する。fasci(fascio)は元来は「束」「団結」を意味するものであり、そもそもの語源は古代ローマの執政官が持つ権威・権力の象徴で、斧の周りに鞭を束ねたfasces(fasciolittorio)に遡る
というようなことを知ることができた。

 そしてその名前の由来ともなったシンボルの図案の方は最初はなかなか見つからなかったが、fascesというキーワードで探してみることで

というWEBサイトを見つけることができた。FlagsOf The Worldのページ中に掲載されているファシスタのシンボルとしてのfascesが次の図である。
 
ファシスタのシンボルとしてのfasces

( リンク先はhttp://www.crwflags.com/fotw/images/it-isr.gif )

 この旗の中の鷲の足が掴んでいるのが「斧の周りに鞭を束ねたfasces」である。といっても、このサイズではよく判りにくいのでこの図を拡大してみたのが次の図である。
 

フランスの公式文書の中のfasces

( リンク先はhttp://www.crwflags.com/fotw/images/fr-fasc.gif )

 先程の「斧の周りに鞭を束ねた」という記述でもそうだったが、これを見ていると、少なくともファシスタ党のシンボルでありその名前の由来ともなったというファスケスはあくまで「斧の周りに木を束ねたもの」であって、「三本の薪」というわけではないようだ。

 ということは、「三本の薪」→「三本のバオバブ」という連想をSaint-Exuperyがしたということは可能性としては無さそうだと思われる。「三本の薪」→「三本のバオバブ」というのは実に素直な連想なので本当なら面白そうだと思ったわけであるが、残念ながらそういうわけではないようだ。
 ただ、「三本」という数字自体はナチズム・ファシズム・帝国主義の計三つの国・主義を示すものであるとしたら、「ファシズムのシンボルとしての木」→「恐怖の象徴としてのバオバブ」という連想が働いたと考えることも無理でないのかもしれない。

 ところで、このファスケスを眺めていると、「星の王子さま」の冒頭に描かれている獲物に巻き付き飲み込もうとしてるウワバミを私は連想した。少しばかりではあるが、形が似ているように私には思えたのである。いや、形が似ていると言うよりは「似た雰囲気」を「ウワバミ」と「斧の周りに束ねられた木」の間に感じたのかもしれない。
 

「星の王子さま」の冒頭に描かれている
獲物に巻き付き飲み込もうとしてるウワバミ

 「星の王子さま」はこの画をきっかけとして、主人公のパイロットが「ウワバミの中身が見える人」= 「ほんとうにもののわかる人」とこれまで出会わなかった、という話が語られていく。そして、「大切なことは目に見えない」という言葉に繋がっていくのである。この言葉は決してメルヘンチックな言葉などではなくて、この言葉の中には何らかの強い意識が感じられるはずだ。

 今回調べてみたファスケスは「結束」とか「権威・権力」を意味するが、その「結束」「権威・権力」のどちらが先に生まれたものなのかは私には判らない。だが、その「結束」「権威・権力」で飾られた内側は時として隠されがちになる。あるいはその内側を見る眼は時として曇りがちになるせいかもしれない。やはりここでも「ウワバミの中身」を見抜く眼を磨くことが必要とされる。かといって、「結束」「権威・権力」に単に批判的になるだけではそれは独りよがりにも陥りがちである。結局のところ、外にも内にも常に問いかけの眼を向けることが「ウワバミの中身が見える人」になるためには必要とされるのではないか、と私は思うのである。
 

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