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2006-11-04[n年前へ]

加納朋子「レインレイン・ボウ」 

 加納朋子の「レインレイン・ボウ」(の文庫版)を読んだ。9人いた高校ソフトボール部のチームメイトの1人が亡くなる。その前後の25歳のチームメイトたちを描いた小説だ。話のアウトラインを稚拙に書いてしまえば、北村薫の「秋の花」とよく似たものになるだろう。あるいは、その感想を書いてみても、Amazonの「秋の花」の書評

それぞれ「彼女」の心を読み解こうと試み、やがて「自分」の位置に思いを馳せる。あるものは倒れ、あるものは絶望し、あるものは迷い続ける。その途上に、彼女の残した「きっと」という言葉。それは運命、その意味へと向き合う人の希望であり、なによりも祈りなのである。
などと似たようなものになるかもしれない。けれど、遥か年上の男性という視点から描かれた物語と、そうでない物語という違いが(いつもそうであるように)ある。

Title虹の彼方に。 9人の物語が、まるで、色環の上を歩いていくように、オレンジ・スカーレット・黄色・緑・紫・藍・青と続く7つの物語で綴られる。何事もあまりに真剣に考えてしまいがちな人は「さらりとしすぎる」と感じ、楽しめないかもしれない。そうでない、「人生楽ありゃ 苦もあるさ涙のあとには 虹も出る」と水戸黄門風に考える人であれば、さらりと楽しめるかも。
「文化によっては、虹は6色とされているところもあるのよ」「何色が抜けているんですか」 …ないことにされている色を気の毒に思い、尋ねた。
プリズムを通過した光が見せる、無数の色のグラデーション。その細かな色のひとつひとつが、見える人には、見える。見えない人には、見えない。
「自分のことは自分が一番知ってるわよ」「自分で思っている自分が、必ずしも本当の姿に近いってことはないですよ」「色んな色が虹みたいに重なり合って、複雑な模様を作ってるからこそ、人間って面白いんじゃないですか」

2008-05-30[n年前へ]

RADWIMPS オーダーメイド 

きっと僕は尋ねられたんだろう。生まれる前、どこかの誰かに。
「未来と過去、どちらか一つを見れるようにしてあげるからさ。どっちがいい?」

「そういえば、最後にもう一つだけ。”涙”もオプションで付けようか?無くても全然支障はないけれど。面倒だからってつけない人もいるよ。どうする?」

2008-06-23[n年前へ]

列車の振動音・鼓動のような「リフレイン」 

 列車に乗っている時に聞く音のような、リフレインを持つ曲がある。たとえば、それは岡村孝子の「電車」だ。「電車」は、さならがらレールの繋ぎ目を台車が過ぎていく時に発する音のように、(サビ前の部分で)ギターがアルペジオを淡々と奏で続ける。そのリフレインに歌詞が重なることで、音を介して、通勤電車に立つ主人公たちが浮かび上がる。

誰もが自分の生き方を見つけて歩いてゆくけれど、 私は変わらずに私でいるしかできない。
岡村孝子 「電車」

 RADWIMPSの「オーダーメイド」も、何かの列車に乗っているかのように感じさせるリフレインを持っている曲だ。この曲の魅力的なリフレインは旋律ではなくて、2回目のAメロから刻み始められるリズムだ。間をおきつつ小刻みに続くドラムの音が、まるで、いくつかの車輪がレールの継ぎ目で音を立てているかのように響く。響くリズムに歌詞も相まって、時間軸に沿って進む長距離列車の姿が浮かび上がってくる、ように感じる。

 生まれる前の瞬間に、「人を作る誰か」が「どんな風になりたい?」と「僕」に訊く。「人を作る誰か」は、色んなことを次々と「僕」に訊く。

 「大事な心臓はさ、両胸につけてあげるからね」
 どんな風がいい?と尋ね続ける誰かに、「僕」は「何か足りない・欠けている」ことを次々と選んでいく。いつも「僕」は不完全な片側を、選んでいく。
 右側の心臓は要りません。僕に大切な人ができてそっと抱きしめる時初めて、二つの鼓動が胸の両側で鳴るのが、わかるように。

一人じゃどこか欠けてるように。
一人でなど生きてかないように。
 そして、「僕」は「人を作る誰か」に「どっかでお会いしたことありますか?」と最後に逆に問う。いつだったか、その「誰か」に会ったことがあるような気がして、「生まれる前」のさらに前だったか、あるいは「さらに後」なのか、「輪廻」か「デ・ジャヴ」か、「どっかで会ったことがある」気がして「僕」はその「誰か」に聞く。
どっかで、お会いしたことありますか?

 そういえば、「リフレイン」は「主だった旋律の前にそれと同等かそれより長い前語りを持つ楽曲の形式」を意味だという。けれど、「繰り返し・反復」を意味することも多い。小さなメロディが何度か繰り返されることを、意味することも多い。
 それは、まるでこの曲が歌う歌詞と小刻みに響くドラムの音が描き出す「不完全なものを繰り返し選択肢・回り続ける輪廻のような世界」を連想させる。

 「望み通りすべてが叶えられているでしょう? だから、涙に暮れるその顔を、ちゃんと見せてよ」
 「人を作る誰か」は誰だろう。それは、もしかしたらそこら中にいる誰かなんだろうか、とも思う。 PVを見ていると、さらにそんな気持ちが強くなる。
「だから、涙に暮れるその顔を、ちゃんと見せてよ。さぁ 誇らしげに見せてよ」
 「僕」が「人を作る誰か」になって、次の「僕」がまた「人を作る誰か」になり、そんな小さなリフレインが聞こえてくるような気がするこの曲は、「涙」や「誇り」や「望み」が混ざったスープのようなこの曲は、本当に素敵な曲だと思う。いいでしょう?



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