hirax.net::OHPによるモアレと光の干渉の相似について考える。 ::(1998.11.22)

OHPによるモアレと光の干渉の相似について考える。  

ヒラックス・ディザの提案

- ヒラックス・ディザの提案 -
(1998.11.22)
 「モアレのデバイス依存について考える。」の時にOHPの重ね合わせについて考えた。その時に、OHPの重ね合わせで光の干渉を表現するやり方について説明した。その時に、「OHPの光、すなわち、干渉性などほとんどない光を使って、光の表現をするのであるが、本質はほとんど同じである」という気がしたので、考えてみたい。また、OHPの重ね合わせに関連して、面白いディザ処理を思い付いたので、それについても考えてみたい。

「位相保存ディザマトリックス」

 まず初めに、4 x 1ドットからなる基本マトリックスを考える。その各ドットは白か黒の値を持つ。例えば、このような感じである。

4x1ドットからなるマトリックス

 この「黒、黒、白、白」というパターンを次の図と見比べる。

位相遅れ0の矩形波、(4つに分割すると、「黒、黒、白、白」となる)
「黒、黒、白、白」というパターンがよく似ていることがわかると思う。4x 1ドットの左を位相0として、各ドットを左から位相0,90,180,270としてやる。すると、4x1ドットのマトリックスで任意の位相の矩形波を表現できることになる。表現した例を以下に示す。

4x1ドットのマトリックスで各位相の矩形波を表現した例1

「モアレのデバイス依存について考える。」で行ったようにこのようなパターンをOHPで打ち出し、重ね合わせてみる。例えば、位相0と位相180のものを重ね合わせたらどうなるだろうか。4x1ドットのマトリックスの全てが黒になる。すなわち、真っ黒になるのがわかるだろう。それでは、位相0と位相90のものではどうだろうか。4x1ドットのマトリックスの内、3ドットが黒、1ドットが白である。位相が同じものどうしを重ね合わせると、元と同じく、2ドットが黒、2ドットが白である。
 ということは、「位相が同じ物どうしであれば、元の明るさを保持する」、「位相が逆であれば真っ黒になる」、「位相が少しずれているのあれば、明るさはその分少し暗くなる」という性質があることがわかる。光の干渉の場合とほとんど同じ性質を持っているのがわかると思う。違うのは、同じ位相のものどうしが重ね合わさった時に、重ね合わせた分明るさが2倍になるか、そうでなくてそのままなのかという違いだけである。
 つまり、この4x1ドットのマトリックスは「きちんと演算が成立する位相情報が記録されている」ということになる。そして、位相が異なるものを重ね合わせた時の位相情報の保存までも考えてやるならば、先ほどの例1は次のように位相の定義を変えてやるほうがいいと思う。

各矩形波の黒の中心位置として位相の値を定義し、4x1ドットのマトリックスで各位相の矩形波を表現した例2

 この例2では位相の数字は各矩形波の中心位置を現すことにしている。それでは、この定義を用いて、位相90,180のものを足しあわせたらどうなるだろうか。下に示すのがその結果である。

例2の定義を用いて位相90,180を足しあわせると

 位相90と位相180のものを足しあわせると、波形はブロードになり、中心すなわち位相135のものができているのがわかる。また、明るさはこれまでが、2/4だったものが1/4であることになり、強度も弱まっているのが表現されている。

 つまり、このようなマトリックスによる表現は波の持つ位相と強度と波形を表現し、演算も成り立っていることがわかる。それでは、例2の基本マトリックスが縦方向に繰り返されている画像(1(基本マトリックス)x8ピクセル)を考える。こんな感じである。

例2が繰り返されているもの

 これは下方向から進行している矩形波の様子そのままである。なお、この図でも基本となるマトリックスは4x1ドットであるから、この例では要素としては1x8ピクセルを示しているのである。どの要素も振幅(強度)自体は同じである。平均の明るさは同じである、と言い換えても良い。また、波形自体も同じである。しかし、位相が異なっている。波の進行そのままである。

さらに強度情報を加える

 このような白、黒のみの2値表現(といってもこの表現にはモアレが欠かせず、そのためには2値表現がふさわしい)では、波の位相、波形、強度を独立に変化させることはできない。例えば、波の波形を変えると強度も変わってしまう。それを独立にしてやろうと思ったら、階調を増やしてやれば良い。しかし、2値表現のままという制限付きであるから、面積階調を使うことになる。これまで4x1ドットのマトリックスで表現していたものを、例えば、4x4ドットのマトリックスにしてやればよい。以下にその例を示す。例Aの強度が例Bの1/4であることがわかるだろう。


4x4ドットのマトリックスで強度の快調を表現した例A

4x4ドットのマトリックスで強度の階調を表現した例B

 このような「位相、波形、強度情報を保存し、演算も成立する」マトリックス表現を仮に「HiraxDither(ヒラックス・ディザ)」と呼ぼう。先の「モアレのデバイス依存について考える。」で使ったスペックルパターンの例はこのヒラックス・ディザの簡易なもの(2x1基本マトリックスのもの)を使っていた。
 また、「モアレのデバイス依存について考える。」で使った同心円状の画像のモアレのパターンは実はヒラックスパターンの特殊な例(1x1基本マトリックスのもの)を用いていたのである。そこでは、単に位相情報しか記憶されていない。この場合には、白、黒が位相情報を現していたのである。だから、黒、黒どうしの所(すなわち、位相が同じ所)では平均の明るさは変化せず、黒、白が重なった部分(すなわち、位相が反対である所)でのみ打ち消し合い、暗くなっていたわけである。波形も、強度情報もこの場合には記録されていない。

「ヒラックス・ディザ」とホログラフィーの相似点

 このようなヒラックス・ディザの「ディザ・パターン内部、すなわち、微視的には位相情報や振幅情報を記録し、巨視的に見ると強度分布のみが認識される。また、相互の演算(干渉)によって違う画像を再生することができる。」という特徴は実によくホログラフィーと似ていることがわかる。

 また、もう少し深く考えると、もっと他の分野とも繋がるかもしれない。いずれ、また考えてみたい。

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