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2012-12-08[n年前へ]

「ビール・ピッチャー注ぎ」の科学 初等幾何学 偏 

 年も暮れ、忘年会のシーズンになりました。白い泡をかぶったビールがタップリ入ったピッチャーを持ち、ビールをジョッキに注ごうとピッチャーをグイッと傾けると、ピッチャー上部の泡ばかりがジョッキに注がれてしまいました。ピッチャーの上の方は泡だらけだからしょうがないか…と諦めていると、横からぐいっと手が伸び、ピッチャーを掴みました。

 「違うんだ。ビールのピッチャーはゆっくり注げば、(泡じゃなくて)ビールが出てくるものなんだ。可能な限りゆっくり、上腕二頭筋がプルプル悲鳴をあげるくらいユックリ注げばいいんだ」
そう言った方がピッチャーをスローにゆっくり注ぐと、確かに泡でなくピッチャーからはビールがこぼれ落ちていきます。

 「そんなバカな…!」と驚きながらピッチャーの中を眺めると、傾けたピッチャーの中で「ビールの上面は水平を保ち、その結果傾けたピッチャーの縁(へり)からこぼれ出している」にも関わらず、白い泡はその上面が全然水平ではなく(泡上面は)まるでピッチャーを傾ける前そのままの形を保っているのでした。「そんなバカな!?」の答は、この泡上面が(ビール上面と事なり)水平になっていない、というところにあったのです。

 ピッチャーを速く傾けてしまうと、ビールが水平面を保つと同時に泡も同じように形を変えて、泡の上面も水平になってしまいます。その結果、ピッチャーからは(上部に位置する)泡だけがこぼれ出してきてしまいます(下図の①)。

 しかし、上腕二頭筋が辛く叫び出すくらいゆっくりとした速度でピッチャーを傾けていくと、泡の表面(と表面近く)はまるでダイラタンシー流体を連想させるかのように動かず、泡表面は動かず・内部の泡だけが動く結果、ビールが注ぎ口から出てくる…というわけです(下図の②)。

参考:ダイラタンシー(英語:dilatancy)とは、ある種の混合物の示す、小さい剪断応力には液体のように振る舞うのに、大きい剪断応力には固体のように振る舞う性質である。この現象が起こる物体を「ダイラタント流体」あるいは「ダイラタンシー流体」という。

ダイラタンシー

 「当たり前だけれど面白いこと」は、下図の「解説図」と書いた部分(右下部分ですね)にあるように、ピッチャーを傾けたとき、ピッチャーが傾くことで泡が(ビールにより)排除されてしまう部分の体積(A部)と、ピッチャーが傾くことで(ビールが移動してしまい)泡を吸い込む体積(B部)は等しい、ということです。
 だから、泡の上部表面は粘度が高くなり動きづらい状態にすることさえできれば、(体積変化がないままでいられるので)泡の上部表面形状は変化しないままでも良い、ということになるわけです。

 ビール(あるいは発泡酒)種の種類による差とか、注ぐスピードの臨界点とか、あるいは、注ぐ(傾ける)速度変化をさらに微妙に工夫するとか…そうした現象に対する実験や数値解析は面白そうです。粘性体シミュレーション屋さんは、レッツTRY!な例題かもしれませんね。

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