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1998-12-22[n年前へ]

殻付き卵の調理方法及び調理装置 

味付き卵の秘密


 私がよく楽しませてもらっている
Fast&Fast (http://www.cds.co.jp/ff/index.html)、
Kurikoma Island (http://www.snet.ne.jp/milk32/index.html)
というWEBページ中に「殻付きの味付き卵はどうやって作るのか」についての考察と実験がされていた。私の友人も妙に味付き卵について気にしていた。一体どうやってつくるものだろうか?もしも、先の2つのWEBページの味付き卵に関する実験を読んでいないならば、この下を読む前にまず見てきて欲しい。

 作り方を味付き卵を作っているメーカーに聞いてみたいが、企業秘密で教えてくれるわけもないだろう。そこで、ずるいようではあるが、特許を調べてみた。すると、公開特許公報の特開平9-271359に「殻付き卵の調理方法および調理方法」という名称の発明があった。

味付き卵の調理方法の特許

 この特許で説明されている技術は以下のようになる。

  1. 殻付き卵を密閉加圧釜1へ装填する。
  2. 釜内を3kgにエアー圧調して、循環液で90℃7分位ゆでる。
  3. 加圧排水後調味液タンクより冷却された調味液を供給し、15℃まで冷却し、循環させる。
  4. 終了後釜内圧力を大気圧へ戻す。
  5. 釜内を真空排気して調味液の浸漬工程を15℃、30分行なう。
  6. 釜内を大気圧に戻して、水を供給し、表面洗浄をする。
  7. 殺菌工程を90℃及び80℃の2回に分けて行なう。
  8. 加圧排水後大気圧に戻して、釜から取出す。
 また、この特許の中で説明されている「従来の技術」は
  1. ボイル槽による常圧のゆで工程
  2. 開放型調味液槽による常圧浸漬
 もしくは、
  1. ボイル槽による常圧のゆで工程
  2. 密閉型調味液槽による加圧浸漬
となっている。ここでいう「従来の技術」ならば、圧力鍋があればできそうである。実際Fast&Firstで行われていた実験はほぼこのやり方である。

 今回のこの特許によれば、少量の調味料でも濃い味付けをすることができると書いてあるが、本当かどうかはわからない。特許は必ずしも本当のことではないだろう。何しろDr.中松のような人もいる。

左が調理装置の全景、右が中心部の拡大図


 いつか、自分の家でも味付き卵の手料理に挑戦してみたいものだ。

2002-01-20[n年前へ]

徳川埋蔵金殺人事件 

超論理特許ミステリー「狩野埋蔵金の埋蔵場所を解読し発掘する方法」





 ワタシの勤務先では「一年に*本特許を書くべし」という恐ろしいノルマがある。もちろん、こまめに書いていれば何の問題もないのだけれど、他の仕事にかまけてついつい後回しにしていたりすると、年末や期末には特許をまとめて書かなければならなくなる。架空の物語を量産する小説家のように、架空の実験データを描き整理し、架空の特許を量産しなければならなくなるのである。

 いつものごとく、昨年末もそうだった。年末の最後の二三日は特許書きで追いつめられ、しかも書き上げられずに、できの悪い小学生のように、家へ書きかけの特許を持ち帰って、正月休みに特許を書かなければならなくなったりしていたのである。そんなわけで、正月番組を見ながら、特許庁の電子図書館のサイトにアクセスし特許調査をしつつ特許を書いていた。が、正月番組などを眺めているせいか、どうにもマジメに特許が書けなかったりするのである。いつしか、ビールを飲みながら仕事とは全然関係無い特許公報を眺めていたりしたのである。

 今回、紹介する特開2001-42765「狩野埋蔵金の埋蔵場所を解読し発掘する方法」という公開特許公報もその一つである。キャッチーな名前で想像つくとは思うが、なんとこの特許出願はいわゆる赤城山徳川埋蔵金の場所を発掘するための特許なのである。世に出される特許は数多く、埋め立てゴミの数より多いくらいかもしれないが、そんな中でも「埋蔵金の隠し場所を解読し発掘する方法」なんて特許は見たことがない。歴史ミステリー、暗号ミステリー、そして、ご当地モノミステリーなどが好きなワタシは思わず目を奪われ、その特許を読み始め、そしてこの超論理特許ミステリーの世界に引き込まれたのだった。

 そして、この特許のあまりの素晴らしさに今回こんな感想文を書いて、世の中にこの超論理特許ミステリー特許を広めたいと思うのである。そして、さらにはこの感想文を読んだ人が特許フォーマットに慣れ親しみスラスラと特許を書けるようになり、ワタシのように特許を書き残しで苦しむ人が減ることを強く望む次第なのである。
 

 さて、特許では、まず「発明の名称」を書かなければならない。この特許でももちろんそうだ。というわけで、
「発明の名称」 狩野埋蔵金の埋蔵場所を解読し発掘する方法
 
 何とも、キャッチーな名前である。これが火曜サスペンス劇場であれば、「徳川赤城山埋蔵金全裸殺人事件2 湯けむり露天風呂で美人女子大生が消えた!村に残る伝説が不気味に今よみがえる!」くらいにはパワーアップすることだろうが、特許の書類としては十分に魅力的である。この名前を見れば、誰しもワタシのようにこの特許の世界に引き込まれるハズである。

 そして、次に「どんな範囲のこと」を特許として宣言するかを書くわけだ。これを請求項と呼ぶが、この特許はもちろんこれだ。
「請求項」 従来一般に赤城山徳川埋蔵金といわれている黄金の埋蔵場所を発見・発掘すること

 なんと、赤城山徳川埋蔵金といわれている黄金の埋蔵場所を発見・発掘してしまうのである。特許を書いて大金を手に入れるという話はたまに聞くが、特許を書いて埋蔵金を手に入れるという話は聞いたことがない。まさに、夢というか、男のロマンというか素晴らしい特許なのである。

 そして、次に「従来の技術」というセクションが続く。つまり、従来はこんな問題がありますよ、こんなに不便だったのですよ、ということを書くのである。それに対して、今回書いたこの技術はそんな「従来の課題」を解決できて、価値があるのですよ、と訴えるのだ。そこで、この特許は説く、

「従来の技術」 従来の技術は、解読に科学性が不足していたために、経済効果の悪いものであった。…暗号のかたちで示されている埋蔵金を資源として再利用するためには、闇雲に探したのでは経済的に成り立たないので技術とは言えない。埋蔵金の探査技術が発達すれば、埋蔵金の発掘は夢や学問でなく産業になるであろう

 なんと、これまでの発掘を「技術とは言えない」と喝破しているのである。かつて、近所の埋蔵金伝説に、電子ブロックの金属探知器を頼りに闇雲に探そうとしていたワタシなどは、「あぁ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ…」と謝らなくてはならないような勢いなのである。この作者発明者は埋蔵金の探査技術が発達すれば、埋蔵金の発掘は夢や学問でなく産業になるとまで謳いあげるのだった。今さっき、埋蔵金探しは「夢で男のロマンだぁ」と書いたワタシはさらに「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ…」と謝らなければならないのである。

 さらに、従来の「埋蔵金探し」を箇条書きに上げ、

  • 勘で場所を決めて、縦穴を掘り、さらにいくつもの横穴を掘ったり、ブルトーザーで土を押しのける
  • 百年にもわたり、長期間諦めずに掘る
このいずれも科学的でないと問題点を挙げるのである。従来例が妙に具体的で、「百年も諦めずに掘ってるのは一体ダレのこと?」とか、「縦穴を掘ったり、横穴を掘ったり、ブルトーザーで土を押しのけるってそれも一体ダレデスカ?」とツッコミを入れたくなり、さらには、「それって…テレビでも観ながらこの特許を書いたのではないデスカ?」と思ってしまうほどなのだ。

 しかし、そんなミステリー特許に引き込まれていくワタシの心の中のツッコミなど知る由もなく、この埋蔵金小説許では、引き続き具体例を挙げて特許の内容を説明していくことになる。それが、次の「実施例」である。具体的な資料群をもとに、埋蔵金発掘に迫るストーリ〜が書き示されている。

 、この資料群がスゴイのである。何しろ、こんな感じなのだ。

  • 資料A 「常習赤城におよそ三百六十万両。古井戸を掘ることを手がかりとすべし」という水野家に伝わる遺言
  • 資料B 「寺の床下から発見された方位図・地図・暗号文書」
  • 資料C 「空井戸から発見した銅板と像」
  • 資料D 「黄金埋蔵はアッという間にされたらしい、という地元住人のウワサ」
どうだろうか。何と、提出された添付資料は地元住人のウワサである。火曜サスペンスも真っ青である。特許庁に申請される特許は数多く、星の数ほどもあるだろうが、そんな中でも地元住人のウワサを添付した特許は他にあるのだろうか?添付された図面資料だって、なんてったって、床下から発見された暗号文書だったりするのである。歴史ミステリーが大好きで、猿丸幻視行を楽しんだワタシなどはもうたまらない面白さなのである。
 
資料Bの一部 「暗号文書」
まさに、歴史ミステリーである

 
寺の床下から発見された方位図・地図

 しかも、資料Aの「常習赤城におよそ三百六十万両。古井戸を掘ることを手がかりとすべし」という遺言に対しては、「ここで疑問に思うのは、義父が何故もっと詳しく埋蔵場所を教えなかったのか」などと死者にムチ打ち、マジメなのかそれともツッコミ?と言いたくなるような感想・疑問を書き、この疑問に対して延々2ページに渡り超論理的考察、超心理的考察を加えることで、ついには「埋蔵金は七つの古井戸に埋蔵されたことになる」と、超論理科学的に鉄槌結論を下すのである。

 そして、下に示す「寺の床下から発見された方位図・地図・暗号」を基に、黄金分割を始めとする数学的考察などを駆使し、埋蔵金の位置を推定する。しかも、単に推定するだけでなくて、経済的・効率的に発掘をするために埋蔵金の位置の計算誤差を延々と論じて、ついには誤差50cm〜7m弱だと推定するのであった。なるほど、この歴史ミステリー小説特許は単に技術特許にとどまらず、経済を見据えた経済ミステリー特許でもあったのだ。「埋蔵金の発掘は夢や学問でなく産業になる」のだ。

 さて、この埋蔵金ミステリーで指し示された「埋蔵金の埋まっている七つの古井戸」がどこであるかを知りたい人も多いだろう。ということで、特許の図を重ね合わせ、埋蔵金の埋まっている七つの古井戸の場所をプロットしてみたのが、次の図である。どの辺りか判らない人のために、広域地図をリンクしておくとここら辺りということになる。
 

ここが埋蔵金の埋まっている場所だ

 さて、この特許の最後には「なお、この辺りは便利な住宅地向きの環境になりつつあるので、住宅が建設される前に発掘することが望ましい」
と産業としての指針まで描きつつ筆をおくのである。

 どうだろうか、面白いミステリー小説特許だったのではなかろうか?そして、特許なんて簡単に書ける、と思った人もいるのではないだろうか?そして、どんどん特許を書きたくなる、と思う人も多いに違いない。で、ワタシは思うのだ。できれば、できることであれば、その書いた特許をワタシにも少し分けて頂いて、ワタシのノルマを少しでも減らして欲しい、と強く強く思うのである。
 
 
 

2003-01-16[n年前へ]

他社プロジェクト追跡システム 

解析途中の某データ ある種のデータベースから、他社の社員の組織図やプロジェクトを「勝手に」推定し、その変化なんかを追跡するソフトを作ってみたのである。自分では結構面白いし、おもちゃにしてはなかなかにオソロシイと思うのだけれど、そんな風に思うのはワタシだけかもしれない。

 ちなみに、ある種のデータベースというのはハッキリ言ってしまえば公開特許データだったり、そんなソフトを作ったのは某作業中だったり、その某作業中には横でプラグイン作成に興じている某氏がいたりという、何がなんだか判らない状態だったけれど、とりあえずその解析を行う途中で出てくる行列を画像にするとこんな感じ。これはちなみに某E社のここ数年の1000件のデータベースから解析した、某250人の間での相関行列。ちなみにこの中には某一ノ瀬さんもかろうじてはいっています。

 というわけで、これが今日の「今日見た景色」

2006-01-19[n年前へ]

公開特許からの他社動向解析 

inside outモーニング娘。でクラスタ分析 昨日、ベンチャーフェア JAPAN 2006 のパティー・ラボのブースで「発明者相関分析システム」というものを眺めました。「特許公開データベースから共同発明者間の相関により他社の発明技術動向を知る」というものです。この技術は、2003年01月16日分の本ページの記事「他社プロジェクト追跡システム」および「できるかな?」の2003年2月2日分の「モーニング娘。でクラスタ分析」で書かれている内容そのものです。ちなみに、「他社プロジェクト追跡システム」で示されているデータは「E社の電子写真関連の特許千件強の発明者データを元にE社の画像関連技術に携わる社員の業務関連度」を示した図例です。そういった解析を行った上で、時系列クラスタ分析をしたのが「モーニング娘。でクラスタ分析」であるわけです。公開特許データベースへのアクセス・データ取得に時間がかかったりしますが、結構面白い結果を得ることができるので、お勧めの方法です。他社の技術動向を解析しようとする場合、同様のことをしたことがある人は多いかもしれません。(X軸に出願件数、Y軸に出願人数をとって描く特許マップもなかなかに面白い結果が出ます)

Title
 ちなみに、同様なことをR社に対して行って、「職場の男女関係」を明らかにしようとしたこともあります(上の樹形図はその解析過程で得られた図の一例です)。「どの男性」と「どの女性」が近い関係にあるのか?なんてことを調べたわけです。あるいは、「特定の男性の周りにどんな女性がいるのか?」なんてことを調べてみたこともあります。それも、なかなかに面白い(本人達にとってはヒヤヒヤものの?)結果が出ました。

 ところで、昨日見た「発明者相関分析システム」の開発元は特許出願を行っているようですが(特願2005-277349)、この技術の新規性や特許性が認められるかどうかについては少しばかり疑問の余地があったりします。何年か前の一件以来、「特許庁への情報提供(匿名チクリによる特許成立の防止)を積極的に行おうか?」なんて考えるようになってしまいました。つまらない話ですけれど…。



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