hirax.net::Keywords::「玩具」のブログ



1999-11-09[n年前へ]

埋蔵金を探せ 

電子ブロックで金属探知機を作りたい その1

 Yahoo!のオークションでこんなものを買った。オークションで落札したのは一つ(EX-60)なのであるが、あとから別口でもう一個(EX-100)手に入った。

電子ブロック (EX-60 & EX-100)

 手に入ったのはいいのだが、お金が飛んでいってしまった。困ったものである。さて、EX-60の拡大したところも示してみる。

EX-60でとある回路を作成中の図

 これを見て懐かしく感じる人も多いはずだ。少なくとも、私の職場ではかなりの比率(80%位か)の人がこれで遊んでいたようで、

「オレはマイキットだった。」とか、
「もっとずっと前のスケルトンになる前のを持ってた。」
「おもちゃ屋の店頭で欲しくて眺めてた。」
などと、声があがった。しかし、新入社員位になると、
「何ですか、これ?」
「欲しかったのに、買えなかったのですか?」
などと言う。ジェネレーションギャップである。いや、もちろん私と年がそんなに離れているわけではないのだが...

 さて、

などを見ると、色々と電子ブロックの情報が載っている。こういうWEB情報がすぐに眺められるなんて、素晴らしくて涙が出そうだ。

 私自身が持っていたものはSTシリーズというものだった。これは、EXシリーズよりも一世代前のもので、デザインなどはずいぶん違う。スケルトンと白・青を基調としたデザインで、今売り出しても人気が出るのではないかと思える。シンプルながらレトロ調なところがいい。しかも、「組み立ててその上面をそのままコピーすれば、回路図も出来あがる」という素晴らしいものである。素晴らしい開発環境である。

 自分で遊んでいた機種でないせいもあって、今回手に入れたEX-60,100を眺めていても、それほど懐かしいわけではない。私自身が遊んでいた機種は、手に入れたいとは実は思わない。昔見た夢は、リアルに蘇らない方がいい、と思うのである。昔埋めた玩具はそのままにしておく方が幸せなのである。

 ところで、「昔埋めたもの」と言えば埋蔵物である。ならば、「昔埋めた夢」は埋蔵金だろう。別に、「夢= 金」という切なくなるような等式を持ち出すつもりはない。別に、お金が飛んでいってしまったせいで、お金に目が眩んでいるわけでもない、と思う。しかし、埋蔵金は男のロマンである。埋蔵金のために人生を棒に振る人がいるというのも、当然である。何しろ、男のロマンなのだ。どこぞのTV局が発掘をしまくるのも、当たり前である。

 ちなみに私は埋蔵物発掘のアルバイトもしたことがあるが、それは正に「男の仕事」であった。知らない人が見たならば、それは土方にしか思えなかったろう。そのバイトの名前を知っている私にも、土方にしか思えなかった。埋蔵物探しとはそういうものなのである。

 埋蔵金が実際に発掘されることはほとんどない。それにも関わらず、埋蔵金伝説は腐るほど存在する。金は腐ることはないにも関わらず、埋蔵金伝説は腐るほどあるのだ。
 大体、どこの地方にも「朝日さす夕日輝く...」という言い伝えがあるはずだ。母と言えば垂乳根であるが、埋蔵金と言えば「朝日...」なのである。ただ、これにも多少のバリエーションがある。もしかしたら、そのバリエーションを探れば、蝸牛考ばりの考察ができるかもしれない。いや、本当にしてみようかな... それは、いつかやてみることにしよう。

 さて、埋蔵金情報を探してみる。すると、

  • TREASUREJAPAN ( http://www.bekkoame.ne.jp/~m1911a1/treasure/treasure.htm)
によれば、私の近所にも埋蔵金伝説は腐るほどあるようだ。自宅の窓から見えるあたりに、二つもある。具体的に挙げてみると、こんな感じだ。
  • 香貫の埋蔵金 N市上香貫、下香貫 -> かつて香貫一帯には九十九塚の古墳群があり、埋蔵金の伝承も残されている。「朝日さす夕日かがやく柿木の下に黄金千盃二千盃」。
  • 釈迦堂の埋蔵金 N市西野字霞釈迦堂 -> 愛鷹山の中腹にある釈迦堂に残る長者の黄金伝説。「朝日さす夕日かがやくこの所、黄金千盃朱千盃」。こちらも古墳群が存在した。
 写真も示してみる。なんて、埋蔵金が身近にあるのだろう。
香貫の埋蔵金(左の山近辺)と釈迦堂(右の山近辺)の埋蔵金の埋まる場所

 そう、めちゃくちゃ近い所に埋蔵金は埋まっているのである。そこで、散歩がてら埋蔵金を探してみることにした。しかし、そうそう簡単に埋蔵金が手に入るわけはない。どこに金塊が埋まっているのか、調べる道具が必要である。
 そこで、埋蔵金探しには必需品の「金属探知器」を作るにした。しかも、せっかく「電子ブロック」が手に入ったのだから、これを使って作ってみたい。

 そこで、まずは金属探知器の仕組みを調べてみた。すると、いろいろやり方はあるがLC発振回路を用いたものが一番簡単そうである。今回の道具はなにしろ電子ブロックである。単純第一でなければやってられない。
 
 このLC発振回路を用いたものはコイルをセンサーとして用いるものである。コイルに金属が近づくことによるインピーダンスの変化を検出するものだ。二つの発振回路を用いて、ヘテロダイン方式で発振周波数の変化を検知するのが一般的なようだ。

 最初の計画では、EX-60,100それぞれでLC発振回路を組んで、その差をアンプに通してスピーカーから鳴らそうと考えた。やってやれないことはないだろう、と考えた。そして、電子ブロックと格闘し始める。そして、2時間後...

「あ"〜〜〜〜。やってられるかぁ! こんな作業〜〜〜〜」

 電子ブロックEX-60&EX-100は、部品数が少ない。トランジスターは1つしかないし、抵抗・コンデンサーの数も3個位しかない。しかも、回路構成がまるでパズルである。平面構造と言えば聞こえは良いが、回路を自分で考え出すのがこんなに大変だとは思わなかった。
 始める前は「ブレッドボードの祖先だから、作業は結構楽かもね」、なんて思った。しかし、それは大きな間違いであった。

 電子ブロックを作った人達は天才である。

実はこれは作業を投げ出した後

 電子ブロックも埋蔵金も共にロマンである。そして、共にかつて埋めた夢だ。昔埋めたおもちゃは蘇らない方が良い。しかし、埋蔵金は私の手元に出現してくれるとうれしい。そのために私は、何としても電子ブロックで「金属探知器」を作り上げなければならない。そして、それを片手に、埋蔵金を探し出すつもりだ。

 こうして、金に目がくらんだインスタント埋蔵金ハンターは、電子ブロックを相手に格闘を続けるのである。というわけで、今回は「背景説明編」である。近いうちに、必ずやこの続編と共に、ゲイツくんもビックリの金塊を手中にする所存である。

そして、私が見つけた素晴らしい埋蔵物の話も書きたいところであるが、それはまた次回ということにしておこう。

2000-01-23[n年前へ]

偽札作りのライセンス 

このページはプリント禁止

 「殺しのライセンス」を持つのはジェイムズ・ボンドである。コードネームで言えば、007である。殺しのライセンスを持つ人が本当にいるのかどうかしらないが、「偽札作りのライセンス」を持つ人はきっといるに違いない。

 「そんなのは当たり前だ」という声も聞こえてきそうな気もするし、「まさか」という声も聞こえてきそうな気がする。そこで、そう思う理由を一応書いておく。

 紙幣を識別する装置というのはたくさんある。例えば、自動販売機などその最たるものである。こういう紙幣識別機というものの動作確認には偽札が必要である。本物の紙幣(や硬貨)を「本物である」と認識する試験は割に簡単にできる。しかし、「偽札」を偽物だと検出するかどうかの試験をするには偽札を作って、テストしてみなければならない。

 タヌキではあるまいし、「葉っぱ」を自動販売機に押し込んでみて、それを「千円札」とは違うと認識したところで何の意味もない。やはり本物とよく似ている「偽札」を使ってテストしなければならないだろう。そうなると、やはり「偽札」が必要になるわけである。

 そういう「偽札」が必要となるからには、「偽札」を作る人も必要とされるだろう。まさか、「紙幣識別機」開発のために法を犯せ、と言うわけにはいかない筈である。ならば、「偽札作りのライセンス」がきっとあるに違いない、というわけである。

 そんなわけで、きっと、「偽札作りのライセンス」は存在すると思うわけであるが、それでは「偽札を作って配る」ライセンスというのは存在するだろうか?紙幣(硬貨)識別装置の開発のためのテスト用に、「偽札」を作るのではない。「偽札」を配布するのが目的とするライセンスは存在するのだろうか?これが今回の問題である。

 私はきっとあると思うのだ。何故なら私の手元にはそれらしき「偽札」があるのだ。本物のような、偽物のような紙幣があるのだ。

 まずは、その「偽札」の画像を示してみる。以下に示す画像の内のどれが本物だか判るだろうか?あるいは、どこが違うか判るだろうか?
 

どれが本物?
(A)
(B)
(C)

 「一目瞭然だぁ。」という声も聞こえるが、結構よく出来ている「偽札」だとは思わないだろうか?よく出来すぎと言っても良いほどである。福沢諭吉の目の辺りの拡大写真を示してみる。
 

どれが本物?
(A)
(B)
(C)

 本物の(A)に対して(B)は実によく似ている。(C)の場合はハーフトーンパターンで細線などはつぶれてはいるが、それでもやはりよく似ている。(B)も(C)も明らかに本物の紙幣をスキャニングしてデザインを少し変えた後に印刷している。

 根拠無しにそんなことを言うのも何なので簡単なチェックをしてみた。下の写真はそのやり方を示す写真である。ここでは、例として(A)と(B)の違いをチェックしているところを示す。

 (A)の画像を「赤」チャンネルで表示し、その上に「緑」チャンネルで表示した(B)を重ねる。違いがあるところでは色ずれが生じるのですぐわかるのである。人間の目は色ずれには結構厳しいので、こうするとすぐに(A)と(B)の違いがわかるのである。もちろん、画像の差をとっても良いのだが、まず画像サイズや位置を合わせるまでは、今回のやり方の方が楽なのである。

 例えば、下の画像では(A)と(B)の画像の大きさをまだ正確に合わせてないため、福沢諭吉の辺りでは違いが見られないのに対して、その他の部分では色ずれが生じている。また、福沢諭吉の下の部分に「ケンコーチョコレート」という表示があるが、これなど(A)と(B)の違いがあるので色ずれが生じていることがわかる。
 

(A)と(B)の違いをチェックしているところ

 こういったテストをしてみた結果、本物の紙幣と「偽札」の間での簡単にわかる違いは、オリジナルの

  • (A) 日本銀行券、一万円、日本銀行、紙幣番号、印影、大蔵省印刷局製造
という部分に対して、
  • (B) 子供銀行券五万円子供銀行ケンコーチョコレート、印影、大蔵省印刷局製造
  • (C) 子供銀行券、一万円、子供銀行、紙幣番号、玩具印影印刷所表示なし
という風に異なる(異なる部分は赤字で表示)部分であった。きっと、こういった「偽札は明らかに異なる点が認識できれば、作っても良い」ということになっているのだろう。例えば、
見本
というような文字を印刷するならば作って配布しても良い、という所なのだろう。

 私が面白いと思うのは、「大蔵省印刷局製造」の表示である。紙幣中央部下の表示である。これは他のもの(例えば、子供銀行券の表示)等と違いあまり目立たない部分である。この「大蔵省印刷局製造」の部分の拡大写真を示してみよう。
 

どれが本物?
(A)
(B)
(C)

 (B)ではそのまま「大蔵省印刷局製造」と残っているが、(C)では文字部分は削除されている。

 これは、(まさかとは思うが)デザインをしている時に、「大蔵省印刷局製造」の表示に気づかなかった、あるいは気にしなかったのだが、後でクレームがついたのではないだろうか?あるいは、後になって「これはちょっとマズイだろう」という判断をしたのではないだろうか?
 そこらへんのことを想像すると、ちょっと面白い。

 さて、「偽札」事件のよくある動機は技術者が自分の技術力を誇示しようとして作ってみた、というのが多いと聞く。私も実は作ってみたくてたまらないのである。「偽札作りのライセンス」が欲しくてたまらないのである。
 
 

2000-09-09[n年前へ]

帰ってきた「電子ブロック」 

動け僕らのスーパーマシン

 某サイトの中枢である某秘密研究室の撮影写真が下の写真である。日夜、色んな道具で遊んだり、無意味な?実験・解析・考察している某サイトの中枢がこの部屋である。といっても、実際にはこの部屋にはそんなに入っていないらしい(だからそれほどちらかっていない)のであるが、それはこの際関係ない。とりあえず、この写真を見ると、部屋の片隅にとある科学おもちゃが積み重なっていることがわかるだろう。もちろん、判る人ならすぐ判るはずの「学研の電子ブロック」が積み重なっているのである。
 

某秘密研究室の撮影写真

 前回、電子ブロックで遊んだ

の時には、Ex-60とEx-100しか持っていなかったのだが、文字通り「人間的に大きなオーパ氏」にEx-150を頂くことができたおかげで、今では三機種が私の部屋に鎮座しているのである。

 知らない人のために電子ブロックの説明をしておくと、電子ブロックというのは学研が出していた科学おもちゃで、電子回路を簡単に作って遊べるものである。今で言うところのブレッドボード上で電子回路を組み立てるようなもので、電子部品が入ったブロックを差し込んでいくことで、電子回路を組み立てて遊ぶことができるのである。子供の頃の「電子ブロック」は私にとってまさにスーパーマシンだった。そして、デザインはスケルトンが基本という古さを感じさせないものだった。下の写真を見れば、電子ブロックの感じが大体つかめることと思う。
 

電子ブロック Ex-60

 電子ブロックについて詳しく知りたい方には、

を読んで頂くことにして、とりあえずこの電子ブロックは店に行けば簡単にすぐ手に入るものではない。もう、基本的には製造されていないからだ。たまにおもちゃ屋の片隅に眠っているとは言うが、「電子ブロック」を探し求める「電子ブロックハンター」達が血眼になっているだろうから、そうそう簡単に手に入るとは思えない(かなりの部分ウソ)。

 そこで、作成されていたのが「バーチャル電子ブロック」である。先のWEB上から説明文を引用すると、

「バーチャル電子ブロック」は教育玩具として人気を博した「電子ブロック」の復刻版という位置づけで、パソコン上でマウスを操作してブロックを配置して電子回路を作成し、その働きをシミュレーションできるソフトウェアです
というものだ。ソフトウェアの力で「電子ブロック」が蘇るのである。しかも、別売りの外部インターフェースをPCに接続すれば、往年のブロックの形状をした外部機器を制御できるというのである。

 この「バーチャル電子ブロック」プロジェクトがアナウンスされてから、ずいぶんと長い時間が経った。その間、来る日も来る日も「バーチャル電子ブロック」のことを考えていたのである。未だかなぁ、早く出ないかなぁ、と毎日考えていたのだ(部分的に誇張有り)。

 それが、昨日ようやく(お試し版)という形でダウンロードして、実際にいじれるようになった。そこで、

から早速ダウンロードして遊んでみることにした。
 
バーチャル電子ブロック(お試し版)

 このお試し版は付属の「スイッチング回路」で使ってる部品のみを使うことができる。トランジスタ一種、LED、抵抗三種、ブザー二種、プッシュスイッチと若干の配線である。それ以外は、使うことはできないようになっている。そこで、使える部品だけで遊んでいたのだが、じきにすぐ飽きてしまった。まぁ、動作確認のための「お試し版」だからこんなものなのなのだろうなぁ、とりあえず発売されたら直ぐに買うことにするかなぁ、と思いながらビールを飲んでウトウトと昼寝をし始めてしまった。すると、私は面白い夢を見始めた。

 夢の中では、コビトさんがいっぱい登場して、何やらセッセとブロックを運んでくる。そして、カチリカチリとお試し版の回路の中にブロックをはめていくのである。あれあれ、あのブロックはさっきまでは使えなかったのになぁ、と思っているのにコビトさん達は無関係に運んでいくのである。

 というわけで、コビトさん達は試しにさっきの付属の回路にボリュームと電流計を取り付けたようである。
 

コビトさんが作ったバーチャル電子ブロック(お試し版) 

 夢の中で私がいじってみると、ボリュームをいじるとLEDの明るさもリアルタイムで変わるし、ボリュームの抵抗次第で、スイッチング回路もちゃんと動く、そしてその上電流計もちゃんと動く。いやぁ、楽しいものである。こりゃ、実際の製品が出たら即「買い」である。

 また、NE555や74-164といったICも夢の中では登場していたのだが、コビトさんにはこれらのICはちょっと大きすぎて運べなかったらしい。あるいは、この狭い領域の中では大きな部品をうまく使えなかったのかもしれない。とにかく、途中でコビトさんは投げ出してしまった。
 

コビトさん達にはちょっと大きすぎるIC 

 さて、この「バーチャル電子ブロック」は私のように「電子ブロックを懐かしく感じる世代」に受けることだろう。それだけでなくて、もしかしたら今の子供達(の一部)にも受けるかもしれない。その時に、「こういうおもちゃが出てくるまでの歴史」をその子供達にぜひ知って欲しいなぁ、と私は思うのである。そうしないと、現在、できているものをあるのがただ当たり前のように思ってしまうのではないか、と思う。

 そして、逆に「昔のものから今あるものへの流れ」を知ることで、「今あるものから明日あるものへの流れ」を作ることができるようになるんじゃないのかなぁ、とおぼろげながら思ってみたりするのである。

2002-09-18[n年前へ]

銀玉鉄砲を撃ちまくれ。(前編) 

銀玉鉄砲の弾道計算


  世の中には「似て非なるモノ」が溢れている。一見同じように見えるのに、よく見ると何故だか大違いというものである。そしてまた、その「似て非なるモノ」の亜種として「言葉の上ではよく似ていて、実際のところもやっっぱりよく似ているのに、世間一般での印象が全く異なるモノ」というのが数多くある。

 その一例が、「月光仮面」と「けっこう仮面だ。月光仮面は「月よりの使者」をキャッチフレーズにする正義の味方で、けっこう仮面は「愛と正義の使者」をキャッチフレーズにするやはり正義の味方だ。二人ともマスクをかぶった正義の味方だし、そのキャッチフレーズだって互いによく似ているのに、世間一般の印象は大違いなのである。「昔、私は月光仮面に憧れていてね~」と遠い目で語る男を優しく見守る女性はいるかもしれないが、「なんてったって、も~、オレはけっこう仮面が好きで好きで~」と呟く男を優しく見守る女性はいるわけはないのである。同じように思い出を語っているのに、そしてその響きもほとんど同じなのに、世間の印象というのは全然違うモノなのである。「月光仮面」と「けっこう仮面」は「似て非なるモノ」なのだ。

 そして、よく似た「似て非なるモノ」がもう一つある。それは銀玉と金玉である。両者ともに「金銀銅」というフレーズで並び称される「貴金属の名」に「宝石を意味する玉」が付け加えられたものであり、ギンダマという響きとキンタマという響きだってそっくりであるのに、その響きを人前で発っした場合の印象は180度違うのである。いや、実際のところはギンダマと口から発することはできたとしても、キンタマなんて口から言葉を出すことは普通一般的にはできないのである。口に出すだけでなくて、例えば恋人を部屋に呼んで、昔のおもちゃ箱を開けながら「ホラ、オレの銀玉鉄砲ー、懐かしいだろー」なんて見せびらかせば、「まだコドモみたいー、可愛いー」となるかもしれない。ところが、同じように恋人を部屋に呼んでも、「ホラ、オレの金玉鉄砲ー、スゴイだろー」なんてキンタマテッポーを見せびらかした日には、これはもう一体どうなることかわかったものではないのである。その響きも、そしてそのピストルとしての役割も、銀玉鉄砲と金玉鉄砲はよく似てはいても、その二つはやはり「似て非なるモノ」なのである。
 

 そんな「似て非なるモノ」の片割れの「銀玉鉄砲」、生まれてはや50年ほどになる銀玉鉄砲を、昨日散歩の途中に買ってしまった。街中を歩いていると、古びたオモチャ屋が人知れずあって、その店に気づいたワタシはついつい足を踏み入れてしまったのである。そして、その店の中で棚の下の段ボールに入っていた銀玉鉄砲を見かけたワタシは、思わず銀玉鉄砲一セットを買ってしまったのである。銀玉鉄砲150円+玉100円のしめて250円ナリであった。玉は残念ながら銀玉ではなくて、BB弾だったのだけれども、少なくとも安っぽい銀玉鉄砲の方は昔と同じ見てくれだった。
 

 「銀玉鉄砲の昔」で思い出すことといえば、子供の頃に遊んだ銀玉鉄砲を武器にした「撃ち合い遊び」だ。あの遊びのことをなんと呼んでいたのかはもう覚えていないのだけれど、きっと適当に「戦争ごっこ」とでも称していたのだったと思う。やっていることは同じでも、それを今風に「サバゲ」などと呼んでしまうとそれは「アレゲ」(=「何だか、ちょっと言い難いけど、アレっぽいよねー」という程度の曖昧な言葉)な世界になってしまう。だから、やはりここは銀玉鉄砲で「戦争ごっこ」くらいの言い方にしておくと、その「戦争ごっこ」で使われる銀玉鉄砲の射程距離は子供心にもそんなに長くなかったような気がする。確か、かなりの至近距離でバンバンと撃ち合っていたような気もするし、少なくとも狙う相手が見えないような遠くから撃つものではなかった。それに、映画の「マトリックス」の一シーンではないけれど、自分を狙って撃った弾を何とか避けたりすることも(たまには)できたりしたような気がするから、きっと銀玉はヒョロヒョロの弾道を描いていたのだと思う。
 

 「できるかな?」では、以前「似て非なるモノ」の片割れ=金玉鉄砲の弾道計算をしたことがあった。その名前の響きも、その役割もほとんど同じ「似て非なるモノ=キンタマテッポー」の弾道計算をしたのであれば、せっかくだから今回はもう片方の「似て非なるモノ」=銀玉鉄砲の弾道計算をしてみることにしようと思う。
 

 まず、銀玉鉄砲で発射された銀玉の初速度(≒10m/s)と、銀玉の重さ(≒0.2g)というデータと、銀玉の直径が6mm強というデータを元にまずは銀玉の弾道を計算してみた。下のグラフは「無風状態で銀玉鉄砲を1.2mの高さで水平方向に銀玉を発射してみた時の銀玉の弾道」を示している。下に示した二つのグラフの中で、上のグラフは「空気抵抗を考慮した場合」であり、下のグラフの方は「空気抵抗を考慮しない場合」である。
 

銀玉鉄砲とエアガンの弾道(玉の重さ=0.2gの場合)
空気抵抗を考慮した場合
空気抵抗を無視した場合

 空気抵抗を無視すると、昔使っていた銀玉鉄砲の銀玉は7m程飛ぶことになる。しかし、実際には銀玉に空気抵抗が働くために、飛距離はそれより少しだけ短くなって6m程しか飛ばないことになる。とはいえ、空気抵抗のせいで短くなってしまった距離は高々1m程なわけで、実際のところ昔の銀玉鉄砲では空気抵抗はあまり影響していなかったのである。子供の頃の記憶を呼び起こしてみても、実際に銀玉はそんなに遠くまで飛んでいるわけではなかったし、この計算結果でも飛距離6mというと「十分遠く」まで飛んでいるとはいえなかった。だから、銀玉鉄砲のバネを改造して強くしてみたり、あるいは銀玉の重さを変えてみたりして、銀玉を遠くまで飛ばそうとした記憶がワタシにはある。その記憶に沿って、「銀玉鉄砲の銀玉の重さを変えてみた場合に銀玉の弾道がどう変わるか」を計算してみたのが下の三つのグラフである。
 

銀玉鉄砲の銀玉の重さを変えてみた
銀玉の重さ = 0.1g
銀玉の重さ = 0.2g
銀玉の重さ = 0.3g

 上のグラフを眺めてみれば、「銀玉の重さ」を軽くすると銀玉鉄砲の銀玉の飛距離はわずかながら長くなることがわかる。子供だった頃を思いおこしてみると、子供心に「銀玉の重さを軽くすると、遠くまで飛ぶハズ」という程度の曖昧な確信で改造をしていたような気がするけれど、アレは今考えてみても正しかったのだなぁ、と思うのである。もちろん、今では「銀玉鉄砲のバネのエネルギーが銀玉の運動エネルギーに変わるから、銀玉の重さの逆数のルートに比例して銀玉の初速度は速くなる。だから、空気抵抗が無視できる場合には銀玉が軽ければ遠くまで飛ぶ」と自然に考えるわけだけれど、少なくとも昔はそんなに淡々とは考えはしなかったのである。
 

 さてさて、そんな懐かしい気分から今現在に気分を強引に取り戻して、最近巷に溢れているという強力なエアガンと昔の銀玉鉄砲の弾道を比較してみたのが下のグラフだ。昔の銀玉鉄砲より50倍ものエネルギーがある最近の強力なエアガンの場合である。そんなエアガンでは、なんと銀弾鉄砲の5倍近く25m以上もの飛距離がある。現実の兵器の世界でも性能競争が激しく行われているのと同じように、おもちゃの玩具の兵器開発も激しいようだ。5mと25mでは大違い、まさに飛び道具である。ここまでくるとやはり「玉」ではなくて「弾」と書く方がふさわしいように思えてしまう。
 

銀玉鉄砲(初速エネルギー=0.02J)と
エアガン(初速エネルギー=1J)の弾道(玉の重さ=0.2gの場合)

 そして、ここまで強力になってしまうと、その特性も昔の銀玉鉄砲とは全くの別物になってしまう。その証拠に、先ほどの銀弾鉄砲の場合と同じように「発射する弾の重さを変えてみた場合の弾道」を計算してみたものを下に示してみよう。なんと、最近の強力なエアガンの場合は、弾の重さを重くすれば重くするほど遠くまで飛ぶのである。昔懐かしの銀弾鉄砲が銀玉を軽くすればするほど遠くまで飛んだのとは全く逆なのである。最近のエアガンのパワーがあまりに強力で弾の発射速度が速いために、空気抵抗による影響が支配的になってしまうのである。そのため、弾の重さが軽い割に直径が大きい弾よりも、重さの割に直径が小さい弾の方が遠くまで飛ぶようになる。
 

強力な(1J)エアガンで銃弾を撃った場合の弾道
弾の重さ = 0.1g
弾の重さ = 0.2g
弾の重さ = 0.3g

 こんな風に、昔の子供のおもちゃ銀玉鉄砲と最近の強力なエアガンはパワーがあまりに違うため、結局のところその特性は「似て非なるモノ」になってしまっている。「姿形はよく似ているのに、その特質をよく見てみると少し違っていて、その印象は結構異なるモノ」になってしまっている。単にパワーの大きさが違うだけで、そんな特性・印象の違いが生まれてしまったりする。子供と大人が大きさとほんの少しの特質が違うだけで結構違う(部分もある)のと同じなのである。

 そう、例えて言うなら銀玉鉄砲は「子供のおもちゃ」でエアガンは「大人のおもちゃ」なのだ。「言葉の上ではよく似ていて、実際のところもやっっぱりよく似ているのに、世間一般での印象が全く異なるモノ」になってしまっているのである。まさに、ギンダマテッポーは「子供のおもちゃ」でキンタマテッポーは「大人のおもちゃ」だったのである。そんなことを考えると、「昨日ワタシが散歩の途中に買ってしまった」のがギンダマテッポーで良かったなぁ、とつくづく思うのである。だって、「ワタシは散歩の途中に「大人のオモチャ屋」にふと足を踏み入れて、大人のおもちゃを買ってしまったのである」なんて言葉を聞く世間の印象はずいぶんと違うに違いないのだから。

2004-01-20[n年前へ]

「地図にない場所」 

 「男の隠れ家」という雑誌に少しハマっていたのは何年も前。その頃は、山奥や海が見える山中にある「男の隠れ家」を扱う雑誌がずいぶんと多かった。今では、そんな雑誌の扱う話もずいぶんと小さくなって、「男の小さな玩具」程度の雑誌が増えてしまった。それも、現実の経済事情を考えれば、まぁ仕方のない話だ。

1 山奥にある「男の隠れ家」ではないけれど、ガイドブックにも載っていない、地図にすら載っていないような隠し湯に憧れたりする気持ちを持つ人は多いと思う。つげ義春が歩くような辺鄙な温泉宿や、あるいは誰もいない山の中でぼぉっとしてみたいなんて思う人は多いハズだ。「地図にもない場所」だなんて、その響きだけで気になってしまう人だっていると思う。


 「はてなアンテナ」というサービスを知ったのは一年少し前だったろうか。『「おとなりアンテナ」という機能があって、不思議なくらい自分の好みに合ったサイトを教えてくれるんですよ』と、ある人に教えてもらったのだった。そして、実際に使ってみると、サイトの好みの類似度から「好みに-近い-サイト」を計算するその「おとなりアンテナ」はとても面白く感じた。だから、しばらくして「はてなダイアリ」が始まった時、ベータテスターに応募してみることにした。「はてなダイアリ」を使い始めると、日記内のリンク(キーワードリンク)の類似度から、その日記に「近い」と想定される「おとなり日記」を算出してみたりする機能が付いてみたりして、その「近い」「遠い」を算出する手法と趣向には感嘆したのである。そのサイトの間の「距離」にこだわるやり方をとても面白く好ましく思ったのだった。そして、その頃にはてなの作成者が研究室の後輩であることを知った。

 なるほど、測地学研究室という名前で、種々の測定手法で色々な箇所の位置を求め、種々の座標系の中にそれらの箇所を書き記したりするという研究室を選んだり、あるいはその中で時間をいくばくかの時間を費やしたのでであれば、「近い」「遠い」にこだわってみたり、「おとなりMap」を描いてみたりするのはとても自然に違いない。三角測量やGPS衛星を使って、色んな場所の位置や距離を求め、そしてそれぞれに適した座標系のもとで地図をつくる、という研究室にいたならば、「距離」を測って地図を描きたいと思うのが自然に違いない。GPS衛星ならぬネットワークロボットを使って、ネット上を測量し、色んな距離を測ってみたいと思うのだろう。そして、彼(彼ら)のあの伊能忠敬のような行動力であれば、これからも色んな地図を作り出して行くに違いない。

2 そんな、「色んな場所の地図を描きたい」という欲求は私にももちろんとても強くある。ひっそりと隠れている何かを誰の目に見えるようにしたい、という気持ちが強くある。そして、そんな欲求がある一方で、それと同時に「地図にはない場所」や「誰も知らない場所」に憧れる気持ちもやはりある。誰もいない「地図にない場所」に行ってみたいという気持ちも強い。色んな場所の地図を描いてしまえば、「地図にない場所」は減ってしまうだろうし、そこにはたくさんの人も訪れてしまうかもしれない。実際、私にはてなを教えてくれた人は、しばらく前にその人の「はてなダイアリ」を閉じてしまった。「ひっそりと隠れているつもりの日記」は消えてしまった。

 まぁ、よくある言い古されたジレンマの話なのだけれど、ふと「地図にない場所」を好きな人こそ「地図を作ろう」としてしまうんじゃなかろうか、と思ったのである。そして、「地図にない場所」をなくしてしまったりするんじゃなかろうか、とふと思ったりしたのだった。



■Powered by yagm.net