hirax.net::Keywords::「同心円」のブログ



1998-11-20[n年前へ]

モアレはデバイスに依存するか? 

 まず、以下のような2つの同心円画像をつくる。(なお、このような画像を簡単に作るために、Photoshop用のフィルターを作った。詳しくは「Photoshopの同心円フィルターを作る。」を参照して頂きたい。)
 以下の2つの画像は少し中心位置がずれている。また白く見えるところは255の値を持ち、黒く見えるところは0の値を持っている。(画像自体は512x512であり、表示の際に128x128に変換している。だから、この画像をそのまま保存して頂ければ、512x512のサイズで保存することができる。)
2つの同心円画像、画像1と画像2。上と下は少し中心位置がずれている。
 次に画像1と画像2をPhotoshopで重ね合わせる。ただし、 Photoshopでは黒=0であり、白=255である。すると、
  1. 黒(0)+黒(0)=0(すなわち黒)
  2. 白(255)+白(255)=255(すなわち白)
  3. 黒(0)+白(255)=255(すなわち白)
となってしまう。最初の2つはLBPで出力したOHPの場合と同じだが、最後の(黒+白=白)が違う。黒の方が白より値として小さいのが原因である。そこで、次のようにしてやればよい。
  1. 画像1を白黒反転し、画像1'を作る。
  2. 画像2を白黒反転、画像2'を作る。
  3. 画像1'と画像2'を加算し、画像3を作成する。
  4. 画像3を白黒反転し、画像3'を作成する。
 この画像3'が求める画像である。物理学的には波の干渉などの説明に使うと便利なOHPである。
OHPの重ね合わせをPhotoshopで真似た画像3'

 それでは、以上の画像変換を小さい画像でまとめて表示してみる。
計算実験A:同心円のOHP風重ね合わせ(画像1+画像2=画像3')
画像1
画像2
画像3'
 点光源から発される単波長光の干渉の説明にはちょうどいいOHPである。

 ところで、上の3つの画像をそれぞれ平滑化してみる。すると、以下のようになる。

画像1,2,3'をそれぞれ平滑化したもの
画像1を平滑化したもの
画像2を平滑化したもの
画像3'を平滑化したもの
 かなり平滑な、画像1と画像2を重ね合わせた画像3が平滑でなく、明確な模様を持つのは不可解である。レーザーの干渉であれば当然このような干渉縞ができるが、これはレーザー光の重ね合わせなどではない。それでは、一体なぜこのような現象が生じるのだろうか。なぜ、平均値が保存されていないのだろうか。
 以下でもう少し詳しく考えてみる。

重ね合わせにおける加算演算

 下のような画像A、画像Bを考える。拡大してあるが、画像自体は1x2ピクセルのサイズである。また、白=255、黒=0とすれば、いずれも平均値は128程度である。
画像A、画像B
 ここで、
  1. 黒+黒=黒
  2. 白+白=白
  3. 黒+白=黒
という加算演算がなりたつとして、いくつか演算をしてみる。

加算演算の例(左+中央=右)
画像A
画像A
画像A
画像A
画像B
画像C
画像B
画像B
画像B

 これに平均値も示すと以下のようになる。ここでは、LBPなどの紙に出力する際によく使われる、白=0、黒=255という表記をする。

加算演算の例(左+中央=右)
下段は平均値の加算における変化を示す。
画像A
画像A
画像A
128
+ 128
= 128
画像A
画像B
画像C
128
+ 128
= 256
画像B
画像B
画像B
128
+ 128
= 128

 同じ128+128でも、結果は128になるか256になるかの2種類ある。同じもの同士であれば、結果は128であるし、そうでなければ256になる。そのために、平均値が保存されないのである。このように、平均値が保存されない、言い換えれば、加算演算の結果が線形でない場合にはモアレが発生することになる。もしも、マクロに見て「128+128=256」が多い領域があれば、それはモアレの黒い部分であり、そうでない所は比較的明るい部分であるということになる。

ロゲルギストの-モアレが生じる理由は黒さの非線形性による-という言葉はこの「128+128=128、と128+128=256という結果の違いがあり、それがモアレの原因である」ということを示している。

 それでは、そのような現象「128+128=128という非線形性」が起きない状態を作ってみる。それには加算の結果である黒がサチらないようにすれば良い。

サチらない加算演算の例(左+中央=右)
下段は平均値の加算における変化を示す。
画像A
画像A
画像A
64
+ 64
= 128
画像A
画像B
画像C
64
+ 64
= 128
画像B
画像B
画像B
64
+ 64
= 128


 これでは、いずれの状態でもグレー+グレー=黒、すなわち、64+64=128という風になっている。これは黒がサチっていないからである。すなわち、-モアレが生じる理由である黒さの非線形性さ-がない状態になっている。
 それでは、この状態で計算実験Aと同じことをしてみる。それを計算実験Bとする。念のため、計算実験Aをもう一度示す。

計算実験A:同心円のOHP風重ね合わせ(画像1+画像2=画像3')
画像1
画像2
画像3'
 
計算実験A:画像1,2,3'をそれぞれ平滑化したもの
画像1を平滑化したもの
画像2を平滑化したもの
画像3'を平滑化したもの



計算実験B:グレー+グレー=黒 の場合
画像1の黒=0を128にした画像4を平滑化したもの画像2の黒=0を128にした画像5を平滑化したもの 画像4,5を加算したもの

 モアレができていないのがわかるだろうか。これはグレー(128)+グレー(128)=256(もっと黒)で線形な関係が成り立っているからである。平均化された画像で濃度がどこも倍近くになっているのがわかると思う。

モアレのデバイス依存性

 LBPではトナーが有る所、すなわち、画像が有る所はほぼ完全に影になる。例え、2枚重ねてもやはり影のままである。しかし、インクジェットならどうだろうか。OHPで使うと、黒といってもLBPに比べて薄い。1枚のOHPの黒よりも、2枚のOHPの黒を重ねた方がかなり黒い。ということは、「黒+黒=もっと黒」と同じである。したがって、OHPを重ね合わせても濃度が保存されている。すなわち、モアレが比較的に出来にくいことになる。ということは、OHPを何で作るかによってモアレの具合が変わることになる。付け加えれば、実際のOHPの場合には透過率を考えなければならない。透過率というものは単なる重ね合わせでない、具体的に言えば、加算演算でなく乗算演算である。それでも、話としては大体は同じことである。

 今回はOHPの話に絞ったが、透過原稿でなく反射原稿についても同じである。むしろ、反射原稿の方が乗算演算でなく、加算演算である分、今回の話そのままである。したがって、一般的なモアレについてインク(もしくはそれに相当するもの)の加算演算の具合によって、モアレの発生具合が違うと考えられる。

 また、話の単純のために白黒の話に限ったが、カラーのモアレなどについてもほぼ同じであろう。トナーとインク、また、混ざりやすいものと混ざりにくい物の違いなどでも面白い結果が出そうである。TVや液晶のようにほぼ線形の重ね合わせが成り立つであろうものと比較するのも面白そうである。

 今回の話を考えている途中で、OHPの重ね合わせと干渉の共通点については、結構奥が深いような気がしてきた。そのため、別の回でもう少し詳しく考えたい。


1998-11-21[n年前へ]

同心円を描くPhotohoのプラグインを作る。 

 「モアレのデバイス依存について考える。」の過程で作成した、同心円を描くPhotoshopのプラグインについてメモしておく。
 作ったプラグインの名前はCirclePlotである。プラグインメニューではJunHiraxというジャンルの中に現れる設定にしてある。

Windows版 プラグインファイル (circleplot.8bf)

 右クリックで「ソースを保存」すれば良いと思う。

 これがCirclePlotプラグインの画面である。スライダーを動かすことにより、同心円の周期、中心位置のX座標、中心位置のY座標、振幅の最大値を調節できるようになっている。

プラグインの画面

 例えば、このような画像を作成することができる。フィルターをかけると、元画像がどのようなものであっても、とにかく同心円を描く。

フィルターをかけた時のサンプル画像

 ちなみに、使ったパラメータは以下のようになる。このパラメータを使えば、Macintosh版でも同じくCirclePlotを使うことができる、と思う。また、パラメータを見れば、どのようにして同心円を描いているかわかるだろう。

パラメータ

1998-11-22[n年前へ]

OHPによるモアレと光の干渉の相似について考える。  

ヒラックス・ディザの提案

- ヒラックス・ディザの提案 -
(1998.11.22)
 「モアレのデバイス依存について考える。」の時にOHPの重ね合わせについて考えた。その時に、OHPの重ね合わせで光の干渉を表現するやり方について説明した。その時に、「OHPの光、すなわち、干渉性などほとんどない光を使って、光の表現をするのであるが、本質はほとんど同じである」という気がしたので、考えてみたい。また、OHPの重ね合わせに関連して、面白いディザ処理を思い付いたので、それについても考えてみたい。

「位相保存ディザマトリックス」

 まず初めに、4 x 1ドットからなる基本マトリックスを考える。その各ドットは白か黒の値を持つ。例えば、このような感じである。

4x1ドットからなるマトリックス

 この「黒、黒、白、白」というパターンを次の図と見比べる。

位相遅れ0の矩形波、(4つに分割すると、「黒、黒、白、白」となる)
「黒、黒、白、白」というパターンがよく似ていることがわかると思う。4x 1ドットの左を位相0として、各ドットを左から位相0,90,180,270としてやる。すると、4x1ドットのマトリックスで任意の位相の矩形波を表現できることになる。表現した例を以下に示す。

4x1ドットのマトリックスで各位相の矩形波を表現した例1

「モアレのデバイス依存について考える。」で行ったようにこのようなパターンをOHPで打ち出し、重ね合わせてみる。例えば、位相0と位相180のものを重ね合わせたらどうなるだろうか。4x1ドットのマトリックスの全てが黒になる。すなわち、真っ黒になるのがわかるだろう。それでは、位相0と位相90のものではどうだろうか。4x1ドットのマトリックスの内、3ドットが黒、1ドットが白である。位相が同じものどうしを重ね合わせると、元と同じく、2ドットが黒、2ドットが白である。
 ということは、「位相が同じ物どうしであれば、元の明るさを保持する」、「位相が逆であれば真っ黒になる」、「位相が少しずれているのあれば、明るさはその分少し暗くなる」という性質があることがわかる。光の干渉の場合とほとんど同じ性質を持っているのがわかると思う。違うのは、同じ位相のものどうしが重ね合わさった時に、重ね合わせた分明るさが2倍になるか、そうでなくてそのままなのかという違いだけである。
 つまり、この4x1ドットのマトリックスは「きちんと演算が成立する位相情報が記録されている」ということになる。そして、位相が異なるものを重ね合わせた時の位相情報の保存までも考えてやるならば、先ほどの例1は次のように位相の定義を変えてやるほうがいいと思う。

各矩形波の黒の中心位置として位相の値を定義し、4x1ドットのマトリックスで各位相の矩形波を表現した例2

 この例2では位相の数字は各矩形波の中心位置を現すことにしている。それでは、この定義を用いて、位相90,180のものを足しあわせたらどうなるだろうか。下に示すのがその結果である。

例2の定義を用いて位相90,180を足しあわせると

 位相90と位相180のものを足しあわせると、波形はブロードになり、中心すなわち位相135のものができているのがわかる。また、明るさはこれまでが、2/4だったものが1/4であることになり、強度も弱まっているのが表現されている。

 つまり、このようなマトリックスによる表現は波の持つ位相と強度と波形を表現し、演算も成り立っていることがわかる。それでは、例2の基本マトリックスが縦方向に繰り返されている画像(1(基本マトリックス)x8ピクセル)を考える。こんな感じである。

例2が繰り返されているもの

 これは下方向から進行している矩形波の様子そのままである。なお、この図でも基本となるマトリックスは4x1ドットであるから、この例では要素としては1x8ピクセルを示しているのである。どの要素も振幅(強度)自体は同じである。平均の明るさは同じである、と言い換えても良い。また、波形自体も同じである。しかし、位相が異なっている。波の進行そのままである。

さらに強度情報を加える

 このような白、黒のみの2値表現(といってもこの表現にはモアレが欠かせず、そのためには2値表現がふさわしい)では、波の位相、波形、強度を独立に変化させることはできない。例えば、波の波形を変えると強度も変わってしまう。それを独立にしてやろうと思ったら、階調を増やしてやれば良い。しかし、2値表現のままという制限付きであるから、面積階調を使うことになる。これまで4x1ドットのマトリックスで表現していたものを、例えば、4x4ドットのマトリックスにしてやればよい。以下にその例を示す。例Aの強度が例Bの1/4であることがわかるだろう。


4x4ドットのマトリックスで強度の快調を表現した例A

4x4ドットのマトリックスで強度の階調を表現した例B

 このような「位相、波形、強度情報を保存し、演算も成立する」マトリックス表現を仮に「HiraxDither(ヒラックス・ディザ)」と呼ぼう。先の「モアレのデバイス依存について考える。」で使ったスペックルパターンの例はこのヒラックス・ディザの簡易なもの(2x1基本マトリックスのもの)を使っていた。
 また、「モアレのデバイス依存について考える。」で使った同心円状の画像のモアレのパターンは実はヒラックスパターンの特殊な例(1x1基本マトリックスのもの)を用いていたのである。そこでは、単に位相情報しか記憶されていない。この場合には、白、黒が位相情報を現していたのである。だから、黒、黒どうしの所(すなわち、位相が同じ所)では平均の明るさは変化せず、黒、白が重なった部分(すなわち、位相が反対である所)でのみ打ち消し合い、暗くなっていたわけである。波形も、強度情報もこの場合には記録されていない。

「ヒラックス・ディザ」とホログラフィーの相似点

 このようなヒラックス・ディザの「ディザ・パターン内部、すなわち、微視的には位相情報や振幅情報を記録し、巨視的に見ると強度分布のみが認識される。また、相互の演算(干渉)によって違う画像を再生することができる。」という特徴は実によくホログラフィーと似ていることがわかる。

 また、もう少し深く考えると、もっと他の分野とも繋がるかもしれない。いずれ、また考えてみたい。

1999-02-26[n年前へ]

ヒトは電磁波の振動方向を見ることができるか? 

はい。ハイディンガーのブラシをご覧下さい

- はい。ハイディンガーのブラシをご覧下さい -
(1999.02.26)

リチャード・ファインマンの本の中で次のような問題があったように思う。
「偏光板がフィルターが一枚だけある。その偏光フィルターの偏光方向をどのようにして知れば良いか?」
その本の中での答えは、
「物体の反射光を偏光フィルターを通して見てみる。」
だった。ブルースター角で入射した光の反射光は、入射面に対して電場の振動方向が垂直になっている、ということを利用するわけである。

分かりやすいように、偏光フィルターを通してみたガラスの反射光をデジカメで撮影してみる。左が反射光を通すような角度に偏光フィルターを回したものであり、右が反射光をカットするような角度に偏光フィルターを回した場合である。この左の場合、すなわち、反射光が一番通過している角度から液晶の偏光面がわかるわけである。

ガラスに映った夕景を写したもの。偏光フィルタの角度を振った。


ところで、このようなファインマンが示したような方法を用いなくても、そもそもヒトは電磁波の振動方向を見ることができるのである。以前、「渡り鳥の秘密- 3000kmの彼方へ - (1999.01.30) 」の中で「鳥は太陽の位置、光の偏光パターンを位置のセンサーに使う」という話があった。ヒトも同じく光の偏光方向、すなわち、電磁波の振動方向を見ることができるのである。鳥はどう見えるかは私にはわからないが、ヒトならば自らが実験台になれるので、電磁波振動方向をどう見ることができるか調べてみたい。というわけで、「渡り鳥の秘密- 3000kmの彼方へ - (1999.01.30) 」の中で「近日中にある実験をする予定である」と書いたものが今回の確認実験である。なお、光の進行方向と磁界の振動方向を含む面を「偏光面」、電界の振動面を含む面を「振動面」と呼ぶ。

電磁波の振動方向をヒトが見ると「ハイディンガーのブラシ "Haidinger'sBrushes"」というものが見える。それを知ったのは、いつものごとく「物理の散歩道」からである。網膜に複屈折性があるために「ハイディンガーのブラシ」が見えるのだという。

私はこれまで、「ハイディンガーのブラシ "Haidinger's Brushes"」を見たことがない。いや、正確に言えば意識したことがない。そこで、判別しやすいように直線偏光を用意してやることにした。そこで、東急ハンズで偏光フィルターを買ってきた。

そして、空を見てみる。もちろん、偏光の偏りが強い、太陽を中心にして90度の角度をなす同心円方向である。詳しくは、

などを参考にして欲しい。これも、結局は「ブルースター角で入射した光の反射光は、入射面に対して電場の振動方向が垂直になっている」せいである。これらからわかるように偏光を認識できると太陽を中心とした同心円が空にはっきり映し出されて見えるのである。渡り鳥はおそらくそれも認識できるのだろう(鳥の種類により、遠い所を見る際には偏光を認識できるが、近い距離では認識できないなどあるらしい)。

さて、ヒトである私は、空を眺めて格闘すること5分程で、「ハイディンガーのブラシ"Haidinger's Brushes"」がわかるようになった。私が見たハイディンガーのブラシ"Haidinger's Brushes"を示す。

私が見たハイディンガーのブラシ "Haidinger's Brushes"

この絵で太陽の方向は右上であり、偏光面は次の絵の青の矢印方向になる。

ハイディンガーのブラシと光の偏光面の対応

というわけで、ヒト(少なくとも私は)電磁波の振動方向を見ることができるのである。慣れてしまうと、白い紙を見つめているときなども(条件によっては)見えるようになる。色を扱う人は意識すると面白いと思う。

ところで、偏光フィルターがどういうものか知らない人のために、NotePCの液晶に偏光フィルターを重ねた写真を示す。

偏光フィルタを液晶に重ねたところ。右と左は偏光フィルターの角度の違い。

なぜ、こうなるかわからない方は、

などを参考にして欲しい。液晶ディスプレイの構造がわかると思う。

そして、面白いことに気づいた。NotePCの液晶からの光は直線偏光である。ということは、NotePCの液晶にはハイディンガーのブラシが映っているのである。正確に言えば、NotePCの液晶を見ているあなたの視界の中央には、ハイディンガーのブラシが映っているのである。と、気づいてみると確かに見えている。

というわけで、液晶ディスプレイを使用している方はハイディンガーのブラシを見て頂きたい。以下のやり方がわかりやすいと思う。

1.このWindowを最大化する
2.下へスクロールして画面を真っ白にする。
3.液晶ディスプレイ(NotePC)を回転させる。
4.画面(視点)の中央に(視点に対して位置が)動かない黄色いもやが見えるはず。もちろん、回転はする。
 液晶ディスプレイやヘッドマウントディスプレイ(HMD)を色々見てみたが、どれにもハイディンガーのブラシは存在していた。視界の中央に不思議な十字架のように現れているのである。現代の液晶技術が負う十字架である。
誰もが、目の前にあるのにそれに気づかないというのも、実に面白い。まるで、「青い鳥」のようである。そして、そういうことはとても多いのではないかと思う。それはそれで面白い話だ。

- それでは、ハイディンガーのブラシをご覧下さい -






































2000-04-09[n年前へ]

心に浮かぶハートマーク 

色覚の時空間特性で遊んでみよう

 4月である。「四月物語」の4月である。

で書いたように、私は4月だけは英語の勉強をしたくなるのである(何故なら、全然できないから)。そこで、ここのところ英語の先生のところに足繁く出向いている。その時に、信号機の例題を出されて「青信号」と言おうとして私は"ablue light"と言ってしまった。すると、「青信号は"green"だ -> The run signalis green.」と言われてしまった。しまった、確かにその通りだ。いや、英語でそう表現することに納得という話ではない。英語ではこうだと言われたら、私はそのまま頷くのみである。"Yes,sir"状態である。納得したのは、信号機の「現実の」色の話だ。そう言えば、日本でも信号機は「緑色」だった。試しに、信号機の一例を次に示してみる。
 
MacOS Xのファインダー上の「緑」信号

実は人にそう優しくないユーザーインターフェースの一例

 本当は「緑色」なのに、「何故、青信号と言われていたのだっけ?」と考えながら、帰り道に交差点、「緑」信号をじっと見ていた。すると、「緑」信号は消えて、黄信号になった。しかし、私の目にはその瞬間「赤」信号が見えたのである。
 私は夢を見ていたわけでも、予知能力があるわけでもむろんなくて、それは単なる錯覚である。「緑」信号が消えた瞬間に「赤」信号が見える、という錯覚である。

 私が見た「赤」信号機の錯覚を実感してもらうために、こんなアニメーションGIFを作ってみた。ソフトをレジストしてないが故の、SGという文字は気にしないでもらいたい。下の画像中央にある黒い点を見つめていて欲しい。すると、緑のハートマークが消えた瞬間から、赤いハートマークがおぼろげに見えるはずである。
 

白地に浮かぶ赤いハートマーク
(黒点を見つめること。)

 

 これは、色覚の時間特性による錯覚の一つである。実際に、赤いハートマークがあるわけではない。私の心の中にだけ、浮かぶハートマークである。

 その原因となる色覚の時間特性を示すグラフを以下に挙げる。これは色覚の時間特性を示すグラフの例である。色覚のインパルス応答のようなものである。ある色を見た後には、その色の反対色を感じるということを示している。
 

色覚の時間特性を示すグラフの例
朝倉書店 内川恵二著 色覚のメカニズム 色を見るしくみ より
 このような、色覚の時間特性により、緑色のハートマークを見た後に、赤いハートマークが心の中に見えたのである。ハートマークの黄色い縁取りの残像は青く見えるのだ。そして、同じように私の信号機の錯覚に繋がるのだ。

 このような錯覚というのはとて興味深いものである。視覚という「デバイスの特性」が「目に見えて実感できる」ことが特に面白い。以前、

で考えた「電子写真」の画像特性や、の時のCCDや液晶といったものの画像特性を考えたときにも何故だかその「デバイスの変なところ」というものには心惹かれるのである。何故なら、私は「短所は長所」でもあると思うからだ。いやもちろん、「長所は短所」というわけで、要は考え方と使い方次第、ということだ。

 さて、先の錯覚は色覚の時間特性によるものだった。それと全く同じような錯覚が、色覚の空間特性から得ることができる。そのような錯覚の一つにこのようなものである。それを下に示してみる。
 

白い線の交差部が赤く見える錯覚

 この有名な画像パターンを見れば、「白い線の交差部が赤く見える」はずだ。

 これは、色覚の空間特性によるものである。これを示すグラフの例を以下に示す。この場合もやはり色覚の時間特性のように、ある刺激があるとその周囲に反対の色の影響が表れる。例えば、周りに白が多いと、その部分は黒っぽく見える。赤色の周りは緑がかって見えるのである。逆に緑色のものの周りは赤く見えるのだ。
 そして、それをさらに進めると、周囲に赤色が少ない場所は、周りに比べて赤く見えるのである。上の画像で言えば、白の交差部は、赤の刺激が少ないので、赤の刺激を逆に感じるのである(ちょっと説明をはしょりすぎかな)。
 

色覚の空間特性を示すグラフの例
朝倉書店 内川恵二著 色覚のメカニズム 色を見るしくみ より

 今回は、このような色覚の空間特性をシミュレートしてみたい。道具は単純にPhotoshopだ。もう手作業でやってみるのだ。ネコの色覚で遊んだ

の時と同じである。
 
色覚の空間特性をシミュレートし、錯覚を生じさせてみる
 これがオリジナル画像。黒背景に白い線で格子模様が描かれている。
  白い(つまり光刺激が多い領域)からの影響を考える。先に示したグラフのように、光刺激がある箇所と少し離れたところではそれと逆の刺激を受けたような効果がある。
 そこで、まずは白い部分からの影響をガウス形状のボカシにより、真似してみる。ある画素から少し離れた所に影響が及ぶのをシミュレートするのである。
 白い部分からの影響(実際には、比較問題となるので黒い部分からの影響と言っても良いだろうか?)は「白と逆の方向、すなわち黒い方向」に働く。
 そこで、上の画像を階調反転させる。すなわち、ある画素から少し離れた所に元の明るさと逆の影響が及ぶことをシミュレートするのである。そしてさらに、階調のカーブを鋭くしてやる。
 
 上で計算したものとオリジナルの画像を加算してやる。これが、人間が感じる画像をシミュレートしたものである。
 白い格子の交差点部が黒く見えているのがわかると思う。といっても、もともとその部分は黒く見えていたとは思うが。

 下に、シミュレート画像とオリジナル画像を並べてみる。

シミュレートした画像
オリジナル画像

 このようにして、オリジナル画像を見たときに感じる錯覚をシミュレートできたことになる(もどきだけど)。

 さて、上では簡単のためにグレイスケールで遊んでみたが、最初に示した赤白の場合のようなカラーの例を示してみる。次に示す四角形の中央部は、右と左ではいずれも右の方が赤っぽく見えるはずである。緑に囲まれた領域は、本来の色に対して、緑と逆の赤色に見えるのである。上に示した白黒格子と全く同じ理屈である。
 

右と左ではいずれも右の方が赤っぽく見える

 さて、この右下の画像中の赤は通常の「赤」よりもさらに鮮やかな「赤」を実現していることになる。左下のものと同じ赤100%の色であるが、左よりももっと鮮やかに見えている筈だ。右下と比べると、左下の赤は落ち着いた赤色に見えてしまうのではないだろうか?
 この右下の赤、すなわち緑に囲まれた赤は、物理的にCRTあるいは液晶(今あなたがこのWEBページを見ているデバイス)などの表現可能領域を越えた、さらに鮮やかな赤色に見えているわけだ。ヒトの視覚のデバイス特性が故に鮮やかに見えることになる。

 さて、鮮やかな「赤」と言えば、「ポケモンチェック」によれば、日本民間放送連盟のガイドラインには

  1. 映像や光の点滅は、原則として1秒間に3回を超える使用を避けるとともに、次の点に留意する。
    1. 「鮮やかな赤色」の点滅は慎重に扱う。
    2. 前項1の条件を満たした上で1秒間に3回を超える点滅が必要なときには、5回を限度とし、かつ、画面の輝度変化を20パーセント以下に押さえる。加えて、2秒を超える使用は行わない。
  2. コントラストの強い画面の反転や、画面の輝度変化が20パーセントを超える急激な場面転換は、原則として1秒間に3回を超えて使用しない。
  3. 規則的なパターン模様(縞模様、渦巻き模様、同心円模様など)が、画面の大部分を占めることも避ける。
とあるらしい。私は「赤」と「緑」の細かいパターンというのは見ていると、何故だか「チカチカして」気持ちが悪くなるのである。かといって、「赤」と「緑」のパターンであっても、細かくなければクリスマス気分で好きなのである。その証拠にでは、その色使いを使っている位である。パターンが細かくない限りにおいては、緑と赤が鮮やかさを互いに引き立てて良い感じに見えるのである。

 しかし、その「赤」と「緑」パターンが細かくなると、何故だか不快なのだ。色覚の時空間特性を考えると、「赤」と「緑」の細かいパターンというのは、もしかしたら読む際に刺激が強すぎるのではないか、と想像してみたりする。根拠はたいしてないのだけれど。
 



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