hirax.net::inside out::2009年07月22日

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2009-07-22[n年前へ]

立体写真は「真を写す」か!? 

 富士フィルムから3DデジタルカメラFinePix REAL F FX-3D W1発表された。ボディの左右に、それぞれ撮像システムを搭載することにより、視差画像・動画を撮影することができるコンパクト・デジカメだ。背面の液晶はレンチキュラー方式(カマボコ型レンズ)で、撮影した立体画像や動画を立体的に眺めることができるようになっている。また、立体画像の出力媒体としては、ここ数年にわたり富士フィルムが製品技術展示し続けていたレンチキュラー方式の「3Dプリント」サービスが開始される、という。私のような(立体写真撮影アダプターを持ち歩いているくらいだ)、立体大好き人間にはとても興味深い製品だと思う。

 しかし、「立体」画像・動画というのは、昔からあるけれど、昔も今もニッチなジャンルである。

 ニッチであり続ける理由のひとつは、立体画像にしろ、立体動画にしろ、表示媒体が「自然でない」ということがあると思う。レンチキュラー方式に限らず、現在ある立体表示システムはいずれも「自然」とは言い難い。少なくとも、家庭におけるようなシステムでは、まだまだ気持ちよく眺めることができて・自然な立体感を得られるシステムはない、と思っている。

 そして、もう一つの理由は、「立体」であることにあまり「価値」が見いだせない、ということがあると思う。特に、動画でなく静止画像の場合には、立体画像には「価値」が生まれづらい、と思っている。

 もちろん、広告や服飾といったジャンルでは、立体画像・動画であること=「価値」という方程式は容易に成り立つ。しかし、こと個人が撮影する「写真」に関しては、その方程式は成立しないことが多いと思う。あまり多くの付加価値を感じられないのである。

 「真を写す」と書いて、写真と読む。景色の中の「部分」を上手く切り取り・描き出した写真は、本当に「真」を写していると感じられることがある。景色の一部を切り取っているのだけれど、けして情報が減っているのではなく、むしろ感じられる情報は豊かになっているのである。

 では、立体写真は「立体を真に写しているか」というと、残念ながらそうではない、と私は思っている。ミニチュアおもちゃのような立体感は得られるのだけれど、それは自分の目の前に広がる立体的な景色を真に写しているものとは感じられないのである。

 これら2つの理由が、立体写真・動画が今一つメジャーなものにならない原因だと私は思う。

 今ある3Dシステムというのは、「2.1Dシステム」くらいなものなのかもしれない。たとえば、今回のデジカメも、静止画像、つまり、2次元画像に0.1次元くらいプラスされた、2.1次元の世界を撮影できると思えば良いのである。逆にそう思った方が、素直に欲しい気持ちになったりするのではないかとも思う。